吉 富 昭 仁
〜BLUE DROP 誕生秘話〜 その11  (2009.5.7更新)

大橋P、大倉監督、私の3人で飛行機に乗り、広島へ旅立ちました。
主にロケハンとTVアニメーション用の内容を決めるための合宿でした。

尾道に到着した我々は、まず尾道ラーメンを頂きました。
美味いです、尾道ラーメン。
セットで鳥の唐揚げが付くのが素晴らしい。

その後、ロープウェイに乗って千光寺へ行ってみようという事になり、ロープウェイ乗り場の近くにある喫茶店で乗車時間になるまで暇つぶしにお茶を飲んでいたのですが、ここで監督が突然つぶやきました。
「1000年後ってのがピンと来ない」

原作となるメディアワークス版の「BLUE DROP」は1000年後が舞台となっているのですが、監督曰く「1000年後がこんな世界のはずがない」との事で、現代を舞台にする事になりました。
なんと言いますかこの辺は私自身当初複雑なものがありまして、最初から「あり得ない1000年後の世界」を前提に舞台構築をしたので「こんな世界のはずがない」というのはごもっともな反応であります。
そんなデタラメな1000年後の世界を構築するのが面白いかなー、と思っていたのですが、それはあくまで私の創作法です。

ここで私が「いや、1000年後じゃないとダメです」なんて言っても実際に映像を作る立場の監督が「ピンと来ない」とおっしゃっている以上無理強いは良くないと思い、新たに監督が構築していく世界を静観する事にしました。

監督が突然そんな事を言い出したので、大橋Pも私も受け入れるのに多少時間がかかりました。
それもそのはず、この作品をアニメにしよう、という企画を立ててからずっと私と大橋Pは1000年後を舞台にするものだという頭でいたので、舞台を現代にシフトするという作業が必要になりました。

その過程で気付いた事のひとつに「海面上昇により日本の海岸線の風景は尾道のようになっている」という設定にこだわる必要が無くなったというのが挙げられます。
つまり現代であれば無理に尾道みたいな風景にしなくても良かったのですが、そこは監督が「いや、尾道だろう」とこだわったので尾道になりました。
この辺は理屈では無く、監督が「BLUE DROP」という単行本をパッと見ての感覚的なものなのだと思います。
「BLUE DROPの基本は尾道みたいな風景とセーラー服」と監督。
なるほど確かに。

ここからは監督が全て組み上げていき、私はその話を元にスケッチしていくという作業となりました。
つまりアニメーションの内容については監督のオリジナルとなるので、クレジットも監督が「原案」となっているわけです。

実はキャラクターデザインの原案も私の絵ではなくどなたか別の方にして、さらにタイトルも変えてはどうかとの話も出たのですが、それではさすがに別の作品になってしまう、との事で却下となりました。
私としては新しい作品作りのキッカケになれば良い、くらいに気持ちを切り替えていたので、それも有りかなーと思ったのですが出資する制作スタジオにとってはそうもいかず…。
そりゃそうか。

それはそうと、私の絵はどうにも地味なのでアニメには向いていないのでは、という自覚があります。
監督からも「あんたの絵は受け手(制作スタッフ)にとって重い」とのご指摘を頂きました。
私の絵をクリーンナップしてくれたキャラクターデザインの竹田さんには御苦労をおかけしました。
実は今でも「元の絵が私じゃなかったらどんなだっただろう」と思ったりなんかして。



つ づ く